「血管美人」「コンソーシアム」への期待
なぜ生活習慣を変えられなかったのか
患者や家族を後悔させたくない
りんくう総合医療センター 循環器内科 部長 兼
りんくうウェルネスケア研究センター センター長 増田大作 氏
当社コンソーシアムに参画して頂いている、りんくう総合医療センター 循環器内科 部長 兼 りんくうウェルネスケア研究センター センター長 増田先生にインタビューをさせていただきました。
脂質代謝異常や動脈硬化といった生活習慣病などがご専門の増田先生。コンソーシアムでの研究テーマは、「毛細血管知見の社会実装の実証」。インタビューでは、コンソーシアムの根幹に触れる熱い想いをお聞きすることが出来ました。「毛細血管を単なる観察からサイエンスに高める必要性」「患者さんの行動を変える説得力ある毛細血管に対する評価の重要性」など、大切な点を聞かせて頂きました。
Q:研究者への道を志すきっかけとなった出来事はあったのでしょうか。
A:多くの命に関わる血管の病気である動脈硬化は、血管が狭くなり詰まる、という極めて単純でありながら重要であり興味深く、かつ日本人に増えている疾患だったから。
Q:コンソーシアムに賛同された理由は何だったのでしょうか。
A:多くの人に毛細血管の変化の重要性、特に未病(まだ病気としては診断できないが今後病気につながる可能性のある状態)との関係について知ってもらいたかった。
Q:「毛細血管知見の社会実装の実証」について、もう少し詳しく教えて下さい。
A:毛細血管の形状を見ることは比較的以前からなされていましたが、形を見てなんとなくこれに関連するかな、という判断が中心でした。しかしこれは科学的に見ている、すなわち「サイエンス」とまでは言えません。それがどのような人に役立つか、また役立ちそうかは、実際のデータを数値化するなり画像化するなりして評価して検証しないといけないと思っています。
Q:コンソーシアムや当社に期待していることは?
A:行動変容につながるデータを、研究マインドをもって出して行って欲しい。従来の測定法による健診データは正常でも、毛細血管を見ることで異常を感知し放っておいてはいけない状況を見つけたいから。これから先、20年後に心筋梗塞や脳梗塞を起こしそうな人を見つけだし、発症を予防できるようにしたいと考えています。そのためには、本人の自覚と行動を変える(行動変容)決意の持続、それを促す医療関係者や社会サービスの成長が併せてが必要です。
私には、こう考えるようになった苦い経験があります。
父の死
私の父は69歳で亡くなっています。平均年齢からすると若い死でした。ずっと仕事ばっかりの父でしたが、62歳の時、足のむくみがあると言って循環器内科の私の外来に来ました。息子はショックを受けました、これは自分の専門分野、心臓病になっているということ、そこを事前に見出せなかったことがショックでした。もちろんすぐに心臓の血管を調べるためのカテーテル検査をやったら心臓に3本ある冠動脈(心臓に栄養を送る動脈)全てに狭窄があり治療が必要でした。もともと糖尿病があって、それが原因と考えられました。それから冠動脈バイパス手術、術後の脳梗塞、糖尿病で透析、透析による頚椎症で四肢麻痺、さらに脚の壊疽(えそ)が広がり最期を迎えました。まぁ、それは不幸なことです。でも、それは、糖尿病があって十分な治療を受けていなければある程度は自然な流れでもあります。それは悲しいですが、それもまた人生ですから仕方がない。でも息子が哀しかったのはそこではない。
健康診断を受診していたのに糖尿病が悪化
遺品整理をしていたら、製薬会社に勤めていた時代は毎年、健康診断を受けていたことが分かりました。検査結果もちゃんと取ってあり、それを追いかけていくと、あるところから糖尿病と言われる。さらにクリニックの領収書とか薬の処方箋とかもあり、病院に行った跡もある。でもそれが途切れているんです。次の結果を見たらまた悪くなっていますから。確かに糖尿病を放置したのは父のグウタラです。でも、健康診断もクリニックも薬局も、父の糖尿病治療を継続させることが出来なかった。健康診断がその重要性に対して十分に説明できていなかったのではないか。クリニックのドクターが、ちゃんと通院の必要性を説明できていなかったのではないか。薬局の人も、薬の継続性について重要性を説明できていなかったのではないか。色んな事が考えられるわけです。我々がしなければならないことは、「(問題を)見つけること」なのは間違いありませんが、もっと重要なのはそのあとの「生活習慣の改善や治療について説得力のある説明」です。これに尽きるわけです。検診は大事だけど、活用しないと意味がない。要精査を放置させないことです。
毛細血管をサイエンスに高める必要性の提唱
毛細血管についても、今までのように見え方(形状)に言及するだけじゃなくて、実装すべきは「サイエンス」です。この血管だったら何%の可能性で癌の発症が上がる、何%の可能性で狭心症、心筋梗塞が増える、何%の可能性で冷え性が増える。それが大事です。そのようなデータが絶対必要です。それがないと、この毛細血管を見るという行為は、ただの紙芝居やお楽しみになってしまいます。ベースとなるデータをしっかり集めることが重要です。そのためにコンソーシアムに参加しています。そして、「血管美人」が、「説得力のある説明」のツールになることを願っています。
増田大作 先生のプロフィール
(出身地)愛媛県松山市
(経歴)2008年 大阪大学 医学系研究科 卒業。その後、大阪大学 医学系研究科 特任助教などを経て現職。
(専門)脂質代謝異常(食後脂質異常・レムナント代謝)、循環器科学、動脈硬化、未病医療、メタボリックシンドローム・肥満症、産業医学、睡眠時無呼吸症候群、
(趣味)ウイスキーとグルメ(大阪市内のB級グルメに出没中)
☆聴き手☆
あっと株式会社 広報・営業担当 千歳頼子。
三重県出身。美味しいご飯と甘いものが好き。
色んなことにチャレンジできる環境で、今回初めて医師の方のインタビューを
させていただきました。
あっと株式会社:https://kekkan-bijin.jp/
毛細血管ラボ(大阪大学微生物病研究所 高倉教授監修):http://lab.kekkan-bijin.jp/